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ひと昔前は家庭料理の試金石といえば「肉じゃが」が定番でしたが、「筑前煮」こそ真にその位置づけなのかもしれない……と思った作品が、谷口菜津子先生の「じゃあ、あんたが作ってみろよ」。




主人公の勝男は、「筑前煮をおいしく作れるような子」がタイプという古風な価値観のイケメン。そんな彼と5年付き合っている恋人の鮎美は、黒髪童顔の清楚美人で、料理が得意。

彼のために鮎美は日々丁寧な和食を食卓に並べますが、勝男は自分では作れないくせに「全体的におかずが茶色い」「季節遅れ」みたいな余計なアドバイスをかまします。

もう、この時点で本作タイトルを心のなかで絶叫したくなると思いますが、安心してください。勝男くん、プロポーズと同時に鮎美ちゃんに振られます。

この展開だけ見ると「ざまあ」なのですが、物語が進むにつれ、だんだん勝男のことが好きになってしまうのがこの作品のすごいところ。

鮎美ロスに落ち込みつつ、「筑前煮くらい自分で作れる」とはじめて勝男が自分で作ったそれは、見た目も味もボロボロ。

これまで当たり前のように食べてきた鮎美の料理を、彼女はどうやって、何を考えながら作ってきたのか。そこに思い至ることで、あらためて鮎美の大切さに気づき、「自分を変えたい」と一念発起します。

そんな勝男を見て、周囲の人々も手を貸していきます。

そのうちのひとりが、料理好きの後輩・白崎。失敗した筑前煮を連日職場で食べる勝男を見かね、華麗にリメイクした和風カレーを振る舞います。


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※【コマ引用】「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(谷口菜津子/ぶんか社)1巻より


美味しく生まれ変わったカレーを食べて、これまで「料理するなんて男らしくない」と小馬鹿にしてきた白崎に対し、勝男は初めて「かっこいい」と尊敬の念を口にします。

勝男を「化石のような古い考えの嫌な奴」で終わらせるのは簡単ですが、社会の価値観が目まぐるしくアプデされていく時代、間違ったり置いていかれたりする可能性は誰にでもある。

だからこそ、あちこちぶつかりながらも変わっていく勝男を、いつのまにか応援したい気持ちになるのかもしれません。

そしてこの白崎くんが作った和風カレー、料理好きで知られる谷口先生の漫画飯だけに、リメイクにも一工夫があって、美味しそうなのです。自作の筑前煮をベースに再現してみます。


ここからは「筑前煮とわたくし」的などうでもよい語りになりますが、何をかくそう私も筑前煮には苦手意識があります。

実家では正月の定番料理が筑前煮で、年末に帰省すると仕込みの手伝いをするのが常。何年も手伝っているので、さすがにそろそろ一人でも作れるだろう……とある日自宅で挑戦したところ、出来上がったのは勝男の失敗作のような、グズグズの一品。

筑前煮は肉じゃがに比べて材料が多いし、その分手間もかかる。さらに煮物は茶色くなりがちなので、彩りよく仕上げようとすると一工夫も必要。

だから勝男の好みのタイプが「筑前煮をおいしく作れるような子」というのは、「こいつ絶対面倒くさいな…」と感じさせつつも、絶妙な設定に思えました。


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こちらが久々に自力で作った筑前煮(の残り)。

以前失敗したときよりは、マシな仕上がりになったように思う。
(具材を心もち大き目に切るのが、グズグズにさせない秘訣かもしれない)


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失敗した煮込み料理はたいていカレールーをぶちこめばなんとかなる、というのもこれまでの経験則ではありますが、本作ではそれだけではない工夫が施されます。

そのひとつが、トマト缶。今回は水とともに、1/2缶程度加えてみました。

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トマト色のスープ状に仕上がります。

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ここにカレールーを適量加えます。

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さらにもうひとつの工夫が、仕上げの牛乳。
これも適量回し入れます。

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トマトと牛乳のおかげでやや赤みのある、クリーミーな見た目に仕上がりました。


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彩りに茹でたきぬさやも添えてみた。

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食べた感想:
単にカレールーだけで仕上げたら、シンプルに根菜味の素朴なカレーになりそうですが、トマトの酸味とうまみ、さらに牛乳のおかげでまろやかになって、すごく食べやすくて美味しい!

これなら今後どんな失敗した筑前煮でも、美味しくリメイクできそうです。野菜もたっぷりで、栄養面でもよさそうですね。

料理に挑戦することで、変わりつつある勝男。一方で鮎美もまた、「モテ」という世間の価値観で武装してきた自分から脱却し始めます。

生まれ変わったふたりが今後どうなるのか、展開が楽しみです。





谷口先生は発酵食をテーマにした最新作の「まめとむぎ」も美味しそうでおすすめです。




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