時代小説家の米蔵卯之助は、超がつくほどの真面目人間。
ある日、入院していた妻・りほ子の容体が急変し、帰らぬ人となる。彼に残されたのは、妻が夫のために書き残した一冊のレシピ帳。
食事もまともにとらないほど憔悴していた卯之助は、妻が心待ちにしていた新作小説を完成させるため再び生活を立て直そうと、レシピ帳を片手に台所に立ち始める。
作者は、朗読をテーマにした「花もて語れ」などで知られる片山ユキヲ先生。誠実な作風だけに、残された家族の再生が、グリーフケアの紹介なども踏まえ丁寧に描かれます。
亡くなった妻に習い、夫が家事をする…という設定の作品は、こうの史代先生の「さんさん録」もありますが、どこかユーモラスな雰囲気の「さんさん録」と比べ、「米蔵夫婦のレシピ帳」は妻が亡くなって間もないこともあり、喪失感の描写がリアルです。
卯之助が妻のレシピのなかから最初に作ったのが、ソーセージと卵焼き。
初心者マークとともに「これから作ってみてね」と書かれたメッセージが理由でしょうか。
【コマ引用】「米蔵夫婦のレシピ帳」(片山ユキヲ/小学館)1巻より
弁当箱に詰めて妻の遺影の前でこれを食べ始めると、やつれた顔に生気が戻っていくとともに、抑えきれない感情が溢れだす。「食の喜び」と単純に言い表せないシーンが印象に残ります。
卯之助の心を一歩前進させた、りほ子さんの味を再現したくなりました。
材料:(※分量は作品を参照してください)
・ソーセージ(コマの絵にあわせ、今回はシャウエッセン)
・卵
・砂糖
・薄口しょうゆ
・塩
自分がこのレシピに興味をそそられたのは、ソーセージも卵焼きも「卵焼き器ひとつ」で作ってしまうこと。初心者にぴったりな、そのテクニックはいかに。
卵はボウルに割りほぐし、砂糖、薄口しょうゆ、塩で味つけする。
卵焼き器に水を入れて火にかけ、沸騰したらソーセージを加えて3分煮る。
煮えたら卵焼き器の湯を捨て、そのままソーセージをこんがり焼く。
ソーセージは「茹でる方が美味しい」とか「焼いた方がいい」、とか色々な説があるようですが、茹でる+焼くの合わせ技は初めてかも。
ここでソーセージから出る油で卵焼きを焼くので、しっかり焼きましょう。
ソーセージが焼けたら皿などに引き上げ、溶き卵の1/3量を流し入れて中火で焼く。
端からくるくる巻いていきます。
りほこさんもおっしゃるとおり、卵焼きは崩れても最終的な成形でなんとかなるから、「きれいに焼く」というプレッシャーから解放されるのが◎。
ひさびさに焼いたので失敗するはず…と思ったら、こんな時に限ってわりとうまく焼けてしまった。
弁当箱におかずとご飯、梅干しを詰めたら完成。
ソーセージと卵焼き、この組み合わせが嫌いな人がいるでしょうか。
食べた感想:
やさしい甘さの卵焼きに、パリッと香ばしく焼けたソーセージ。シンプルな美味しさに、自然と気力が沸いてきそう。
料理好きは「緑の野菜もあったほうがいいのでは」など思いがちですが、料理のファーストステップとしてはこれで十分。
卯之助が青汁だけは飲んでいたことからも、りほ子さんは残された夫に何が優先的に必要か、お見通しだったのかもしれません。
手順に従えば(時には技術も必要だけど)、プロの味も、思い出の味も再現できる。レシピってあらためてすごい存在。
そしてなぜレシピが存在するかというと、やはり「残したい」という人と、「食べたい」という人がいる関係があるからなのでしょうね。
コメント
コメント一覧 (2)
果たしてこのレシピをつづった時に、彼女は「もう戻れないかもしれない」という可能性を考えていたんでしょうか
だとすると入院前に行った思い出の地で弁当を食べていた時に、一緒に水仙の花畑を見れないかも……という事をあの明るい笑顔の裏で感じていたのかも
レシピ帳からは残される旦那への気遣いと、強面で不愛想でも寂しがり屋の亭主を残していかねばならないという奥方の無念も感じる気がします
まーむさん
ほんと、りほ子さんの人柄が伝わってくるようなレシピ帳ですよね。
わかりやすくて、温かみがあってチャーミングで。
レシピの書き方ひとつとっても、個性が出るんだなあと感じました。
エピソードが進むにつれ、ちょっと凝った料理も出てきて卯之助の腕の進歩も感じます。