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大抵の人には「苦手な食べもの」がある。

私は比較的なんでも食べられるほうだけど、生の牛乳だけはいまだにちゃんと飲めない。

木綿八十子先生「桐切蛍の嫌いな食べもの」の主人公、蛍(ほたる)はそういうレベルではない偏食人間。




彼女の会社での昼食は、いつも決まったメニュー。
パンの耳、きゅうり、ハチミツ、ブドウ糖、麦茶。

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※【コマ引用】「桐切蛍の嫌いな食べもの」(木綿八十子/少年画報社)1巻より

私は今後一生この食事だけで生きるつもりです

と豪語する彼女は、「サンドイッチは具材をまとめて食べる意味がわからない」と言い、「ラーメンは油田を飲むようなもの」と断固拒否。

そんな彼女をイラつかせるのが、食べることが大好きで「嫌いな食べものはありません」という新人営業の衣袋(いぶくろ)。

彼との出会いから、蛍はトラウマが原因だった「嫌いな食べもの」に触れるようになり、新しい世界を発見していく……というストーリー。

偏食について、昔は「わがまま」「矯正するべき」として単純に片づけられがちだったけれど、最近は多少理解が進んだように思われます。衣袋も当初は、アレルギーでもないのに偏食な蛍を「人生半分以上損している」と決めつけますが、のちにこれを謝罪します。

「嫌い」「苦手」なものとは距離をとっていい。だけどもし機会があれば、嫌いなものとの距離を縮めて、新しい発見を得ることだってできる。

好きか嫌いか 食べるか食べないか 決めるのは私」という蛍のキメ台詞(?)にも、そんなスタンスが表れているように思えます。


さて、第8話では日本全体が「好き嫌い」に沸いたあの食べものが登場します。

1993年に日本で起こった、米騒動
冷夏の米不足が原因で、タイ米を緊急輸入することになり、家庭では、タイ米と日本米を混ぜた「ブレンド米」が普及。食べ慣れない味に、多くの人が困惑した……という、懐かしい平成史のひとこまです。

エスニック料理が今ほど浸透しておらず、タイ米を食べ慣れていなかった当時の日本ではしょうがない点もありますが、せっかく海外から融通してもらったお米に不平不満が出たことには、国内からも批判の声もあがっていたことを記憶しています。

(「美味しんぼ」にも米騒動を取り上げたエピソードがありましたね)



蛍の勤める会社でも、この1993年の米騒動を覚えている世代(アラフォー以上)とまったく知らない人(20代)にまっぷたつ。

そこで衣袋の提案で、会社の会議室にてみんなで「ブレンド米を食べる会」を開催することに。

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※【コマ引用】「桐切蛍の嫌いな食べもの」(木綿八十子/少年画報社)1巻より

私も米騒動ジャスト世代ですが、家が米農家だったので食卓にタイ米がのぼった記憶はなく(おそらく米どころ出身の人も同じなのでは)。

世間を騒がせた「ブレンド米」がどんな味だったのか、気になって再現してみました。

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タイ米(ジャスミンライス)と日本米(ヒノヒカリ)です。分量は半々ずつ。

こうして比較すると、生米からしてかなり形状が違いますね(ヒノヒカリは小粒だからよけいにそう感じる)。

日本米はいつもどおり洗ってとぎ、タイ米はさっとゆすぐ程度に。

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鍋に水と一緒に入れ、30分ほど吸水させてから炊きます。
(作中では炊飯器だけど、持ってないので土鍋で)

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その間におかずの数々の準備。
赤ウインナーは切れこみを入れてさっと焼き、塩鮭はグリル。
卵は半熟に茹でておきます。

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ブレンド米が炊けました。

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意外だったのが、ブレンドだと、炊きたてのジャスミンライスのあの独特の風味がかなり控え目になること。

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1:1で混ぜたのですが、意外と見た目は長米種のほうが存在感のある仕上がり。

これでグリーンカレーとか食べたいな~、と思いつつ、
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※【コマ引用】「桐切蛍の嫌いな食べもの」(木綿八十子/少年画報社)1巻より

ブレンド米はね…ふっつ~~の日本食と食べてギャップを味わうことで93年を感じられるのよ!
と眞弓さんのセリフどおり、並べるのはごく普通のおかずたち。

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ゆで玉子。

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塩鮭。

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懐かしの赤ウインナー。

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たらこ。

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梅干しとたくあん。

それにふりかけ、海苔、カップみそ汁。

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あとは各自で好き放題できるのが、米パ(※米パーティ)の醍醐味。

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食べた感想:
食べてみても、やはりブレンドするとタイ米の香りはかなり弱くなる印象。なので当時もあの匂いが苦手な人には、100%タイ米と比べれば多少食べやすかったのかもしれない。

一方で、食感はタイ米の「パサパサ」と日本米の「もちもち」が混在していて、どっちつかずの、なんとも不思議な味わい。

逆に言えば、和食でもエスニックでも「そこそこ合う」バランスになる印象です。

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個人的なお気に入りは半熟たまごと醤油。ナンプラーを落としたら、エスニック寄りになるかもしれない。


当時の騒動の教訓で米の備蓄が進み、現在は米が不作の年でもすぐ不足する事態にはならないとも聞きます。

しかし万が一またタイ米を輸入することになっても、エスニック料理が家庭に浸透し、レシピもすぐに調べられる環境が整った令和の時代なら、受け入れられ方もまた変わってくるのかもしれません。

これもまた「嫌いな食べもの」が新しい世界を切り開いてくれた事象のひとつといえるかも?






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