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危険な場所にほど美味いものがある

そんなモノローグから始まる、「鍋に弾丸を受けながら」。

主人公は漫画原作を生業にする作家・ジュンタロー、30代男性。趣味の釣り繋がりで培った人脈で、世界の危険エリアとその場所ならではの「うまいもの」を紹介するノンフィクショングルメマンガです。




ノンフィクションのはずなのに、表紙の絵からわかるとおり、30代男性のはずの主人公のジュンタロー氏をはじめ、作中に出てくるキャラクターは、メキシコの屈強なボディガードだろうとシカゴの大柄な移民男性だろうと、みんなキュートな美少女として描かれます

主人公いわく、長年にわたる二次元の過剰摂取で「脳が壊れている」ため、自分の周囲には(自身を含めて)美少女しかいないのだ……という設定も、なかなかぶっ飛んでます。が、意外と違和感がなく読めるのがなんかすごい。いやでもこれまでだって、戦艦や刀剣や文豪が二次元化されてきたのだから、強面のおっさんが美少女になって不自然なことなどあるだろうか。いやない。

一話目から登場するのが「マフィアの拷問焼き」で先制パンチを食らわされますが(※料理名なのでご安心ください)、日本が「70点から90点のものがどこでも食える」場所だとしたら、危険エリアでのグルメは「20点か5万点」、という説明もいきなり興味がそそられます。

これは現地での緊張がそう感じさせる、というような精神的な話ではなく、アマゾナスの「緑色のオレンジ」から絞る鮮烈なジュース、ザンビアの「砂糖がかかっている」ように甘いアボカド……おそらく現地でしか味わえない、(我々極東の人間にとって)未知の食べ物、がまだまだリアルに存在するということ。

知らない世界を知る面白さと、まだ知らない美食へのあこがれ。

テレ東の「ハイパーハードボイルドグルメリポート」や、高野秀行さん・丸山ゴンザレスさんのような海外ルポが好きな方におすすめですが、ジュンタロー氏のルポが面白いのは、辺境に行くこと自体が目的ではなく、趣味の「釣り」をディープに極めていった結果、ディープな人間関係が勝手に築かれていった、という背景で成り立っている点(ご本人は人付き合いが苦手なタイプだそう)。

各エピソードの合間のコラムにその経緯も書かれていますが、これも大変面白いのでぜひ。


前置きが長くなりましたが、今回は第2話に登場するイタリアンビーフのサンドイッチを再現してみました。

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※【コマ引用】「鍋に弾丸を受けながら」(森山慎/青木潤太朗/KADOKAWA)1巻より

映画「ゴッドファーザー」のようなイタリアンマフィアの本場、シカゴ。貧しいイタリア移民の安くて美味しいご馳走として生まれ、今やシカゴ名物にもなったのがこの料理。

コマの絵の通り、パンの中にはスライスされた肉が、肉だけがぎっしり。

日米のサンドイッチの概念の違いも説明されますが、なかなか衝撃的です。

日本人はサンドイッチを「おにぎり」と同様にとらえ、おにぎりのご飯の部分=パン、そしてその中に具材を入れるもの、と考えますが、本場から言わせるとこれは「アヤマチ(過ち)」。

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※【コマ引用】「鍋に弾丸を受けながら」(森山慎/青木潤太朗/KADOKAWA)1巻より

正しくはご飯の部分=肉、つまりサンドイッチの本体はパンではなく肉

ΩΩΩ<な、なんだってー!? 
(古き良きAA)

でもこの概念を理解すると、アメリカの肉食文化自体が色々するりと腑に落ちるような気がする。そうか、パンは海苔みたいなものだったのか……。

背景も知るとなお食欲をそそられるこのイタリアンビーフ、現地のお店そのままの作り方は難しいようですが(ミートスライサーなどが必要なよう)、ご安心ください。

ジュンタロー氏による、日本のご家庭でも再現できるレシピが作中に掲載されています。ありがてえ……。

ちなみに海外サイトにも「イタリアンビーフを自宅で再現する方法」みたいな記事があったので、基本は外食料理なのかもしれない。

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材料(1人分):※分量は想像なので参考まで

・しゃぶしゃぶ用牛肉 180~200g
・小さめのフランスパン 1本
・塩、コショウ 適量
・パプリカパウダー 適量
・オレガノ 適量
・ガーリックパウダー 適量

牛肉は脂身があるものなども試してみたのですが、もも肉のように脂身の少ないものが個人的には好みの仕上がりでした。

パンは業務用のソフトフランスパンを通販で取り寄せたのですが、後述のとおり汁気にパンが負けるので、もうちょっとしっかりした固さのフランスパンでもいいかもしれない。

※これも海外サイトで得た情報ですが、シカゴではTuranoGonnellaというメーカーが出している「French Rolls」という市販パンを使うことが多いよう。サブウェイのパンにもちょっと似てますね。

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しゃぶしゃぶ用牛肉を1枚ずつ広げ、塩コショウ、パプリカパウダー、オレガノ、ガーリックパウダーを振ってミルフィーユ状に重ねていきます。

この肉の下味が最終的な味つけにもなるので、塩コショウや各種スパイスは、1枚重ねるごとにちゃんと振ったほうがいいです(といってもびっしり振ると塩辛くなるので注意)。オレガノは香りが強いので、得意でなければ他のスパイスよりは控え目にしてもいいかも。

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重ね終わった状態がこちら。わりと厚みがある。

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ミルフィーユ状に重ねた肉の両面を、フライパンでさっと焦げ目をつけて焼きます。
(今回は脂身のないもも肉なので、バターも少量使って焼きました)

このとき、ビネガー(今回はバルサミコ酢)と、隠し味程度にしょうゆをひとたらしします。

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厚手の鍋に薄く水を張り(100~150ccくらい)、焼いた肉を入れます(フライパンに肉汁が出ていればそれも一緒に)。

フタをして極弱火にかけてゆっくり温めます。

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沸騰直前くらい、フタをあけて肉汁が出ていることを確認したら、火を止めます。

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ミルフィーユ状の牛肉をやさしくほぐし、肉汁のなかで肉に火が通るように仕上げます。

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フランスパンに切り込みを入れます。お好みでここにもバターを塗っても。
(今回は作中のビジュアルに近づけたいので、両端をカット)

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鍋の肉を全部詰め込むよう頑張ります。

日本でローストビーフサンドイッチでも買えば、肉片が数枚入っているだけでありがたい気持ちになるので、肉と主食の概念が逆転したようなビジュアルは、実際目の前にすると脳がバグりそうになる。

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そして肉汁のなかに、パンごとダイブ(ディッピング技法)

トングが扱いづらければ、衛生用手袋など着用して手で直接ドボンするほうがスムーズかも。

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↑こんな感じで(肝心のパンが見えない、うっかりアングルな写真)

今回のパンが思ったよりもやわらかく、ぐずぐずで耐久性がもたなさそうなので、鍋の汁気を全部吸わせることはかなわず。

別のときに、もう少し硬めのフランスパンでやってみたらうまいくったので、パンの硬さはある程度あった方がいいかもしれない。

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魅惑のイタリアンビーフ、完成!

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食べた感想:
下味のスパイスが香る肉は、ゆっくり火を通したおかげでしっとりやわらか。

一口食べるだけで、かつてサンドイッチで体験したことがないような大量の肉が押し寄せて、「メインはパンじゃなくて肉」が実感できます。

そして何よりも、グレービーソースが染み染みのパン。まさに「つゆだく牛丼」のサンドイッチ版と言えるかも。

牛丼はバラ肉が美味しいけれど、イタリアンビーフの場合は、もも肉のような脂身のほとんどない部位のほうが、この「肉とパンに染みた肉汁」の美味しさを、わかりやすく味わえるのではないかと思います(そしてカロリーも抑えられるのではないかと)。

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食べる時は、前傾姿勢のファイティングスタイル「シカゴスタンス」で!
(スイカを食べるときと同じ、という説明が実際に食べるとすごくしっくりくる)

なんで……なんでこれ 日本にないかなあ……!?
というジュンタロー氏のセリフも同意するしかない。

再現して満足するかと思いきや、本場の味が余計に気になってしまった。いつか日本に、手が汚れること前提の肉々しくてジューシーな本物のイタリアンビーフの店が進出してくれますように。





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