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待ってました…!
大団円の「へうげもの」完結から約2年、山田芳裕先生の新作「望郷太郎」が刊行されました。

一時はアシスタント探しにも難航されていたようで(山田先生、いまもすべてアナログ作画とのこと…)、連載準備も大変だったようですが、待っただけあり導入の1巻からめちゃくちゃ面白いです。

↓公式サイトで無料で1話読めるようです


大寒波に襲われ、世界的に凍死者が相次ぐ2000年代。
舞鶴通商のイラク支社長・舞鶴太郎は、妻子とともにシェルターの冬眠装置に入る。

天候が回復するまでの一時避難…のはずが、彼が目覚めたのは500年後の世界。
妻子はすでに亡くなり、生き残ったのは自分ひとり。

絶望し一度は自ら命を絶とうとするも、東京に残してきた長女の存在を思い出す。

どうせ死ぬなら、残した家族のその後を知ってから死にたい。
なかば破れかぶれで、イラクから日本を目指しスーツケースひとつで旅立つ太郎。
といっても街は壊滅状態で交通機関もなく、移動手段は徒歩のみ。

当然食料も尽き吹雪のなか行き倒れるが、謎の男2人組に救われる。

意識が回復し、久々に目にした「人間」に太郎は安堵するも、刃物で自分の寝首をかこうとしていた彼らの行動に気がかりを覚える。

空腹の太郎に、彼らは食べ物を分け与える。
羊肉と野菜を煮ただけの鍋。

この食べるシーンが、山田作品ならではの迫力ある「顔芸」含め圧巻。

「望郷太郎」(山田芳裕/講談社)1巻より
※【コマ引用】「望郷太郎」(山田芳裕/講談社)1巻より
うまい…………
塩と野菜で煮ただけのマトンが………
38歳までに食べた何よりもうまい……!!

大企業の創業者一族の七代目だけに、以前は美食に明け暮れていたであろう太郎。
そんな彼が今や痩せこけた顔でこの素朴な料理を味わい、感動のあまり涙を流す。

ここ数年で読んだなかでも、指折りの美味しそうで印象的な食のシーンでした。


あまりにも美味しそうだったので、
羊肉、煮たい。そして貪りたい。
という欲が沸いてきました。

骨付き羊肉を通販できるか調べたら、イメージにぴったりの料理を発見してしまった。



モンゴルのチャンスン・マハ(シューパウロ―)という羊肉料理。
骨付きの羊肉の塊を塩で煮て、ナイフで切り落としながら食べるというシンプルな遊牧民料理。

↑の参考サイトでは5~6キロの肉塊を茹でるようですが、うちは家族がマトンが苦手で食べられるのは私のみ……ということで、1キロから販売していたこちらのお店で購入しました。

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届いた1キロ分の羊肉です。
冷凍じゃなくて冷蔵で来るのがありがたい(解凍なしですぐ調理できるから)。

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セットでついてきたモンゴル岩塩も気分が上がります。

作中の鍋の肉はややチャンスン・マハより小さく見えるので、塊肉を半分くらいに切り分け、ざっと洗って水から煮ます。
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アクが出てくるのですくいます。

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30分ほど煮込んだら、野菜を入れる。今回はコマの絵から推察して、じゃがいもとにんじん。
(付属のレシピによると、通常のチャンスン・マハはネギやショウガをいれるのがおすすめらしい)。

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岩塩は3回程度に分けて加えます。
ちょっとしょっぱめに味付けたほうが美味しいらしい。

合計で1時間半程度煮込んだら完成。
(肉の味が抜けるのでこれくらいの煮込み時間にしましたが、ホロホロにするならもっと時間をかけたほうがいいかも)
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塩で煮込んだだけ!
なのにやたらと美味しそうに見えるのは、やはり骨付き肉塊のビジュアルのせいでしょうか。

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気分的な問題で枝にぶっ刺して食べてみます。

ほんと塩で煮ただけなのに、なのに……肉がジューシーで、しっかり塩気もあって美味しい!
牛肉や豚肉も茹でただけでこんなに美味しくなるものなんだろうか。
それとも独特の香りがある羊肉ならではの食べ方なのかなあ。


太郎はその後、彼を救った2人の男、パルとミトと生活をともにします。
しかし狩り一つまともにできない自分に彼らが向けるまなざしは、「人」に対するものではなく、「ペット」に近いものだと気づきます。

自分も人間扱いしてほしい
太郎は変わりばえのしないこの塩味のマトン鍋に、とある食材を持ち込みます。

「望郷太郎」(山田芳裕/講談社)1巻より
※【コマ引用】「望郷太郎」(山田芳裕/講談社)1巻より

それは土地に自生していたハーブ、オレガノ。
現代でもイタリアンでおなじみのスパイス。

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パルは薬草として使っていたようで、鍋に入れようとする太郎の行動にとまどいます。

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おそるおそる食べたパルとミトは目の色を変えます。
何か……
スッとする……
唾 出てくる………

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オレガノで味変。

うまいのかまずいのか聞かれたときのパル氏のツンデレ反応が好きです。
「望郷太郎」(山田芳裕/講談社)1巻より
※【コマ引用】「望郷太郎」(山田芳裕/講談社)1巻より

500年後も生きる青汁の精神。

パルたちのような自然環境でサバイブする身体能力は備わっていなくても
舌は俺の方が肥えている
と美食の経験値のみで「人」と認めさせた太郎。

料理を通じて人類は進化し発展した…という説もうなずけるほど、「うまいもの」はやはりいつの時代も普遍的な力を持っているのかもしれません。

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ここからは実際に食べてみた感想。
乾燥オレガノはよく使うけど、生のオレガノを食べるのは初めてかも。
ほのかな苦みの奥に、独特のフレッシュな「スッとする」香り。

ただ私の舌では、乾燥オレガノのほうがやはりスパイスとして香りが強く、わかりやすく「味変」する気がしました(スーパーのフレッシュハーブなので香りが弱いのかもしれませんが)。

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オレガノもいいけど、個人的にはやっぱりパクチーだなー。

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突然の天下一品小鉢ですが、肉付属のレシピで紹介されていたモンゴル風たれも作ってみました。
(関係ないけど、春のパン祭りのやつとかこういう皿って500年後もしぶとく使えそうですよね)

しょうゆ、酒、みりんを火にかけて沸騰したら冷まし、パクチー、ねぎ、しょうが、にんにく、酢、ごま油を混ぜたもの。
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おいしい、おいしいよ……。
香味野菜はやはり文明の味です。

1キロともなると、まだまだ余る羊肉&スープ…ここからは楽しい消化試合です。

まずはマトンラーメン。
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しょうゆ、すりおろしにんにく&しょうがを足したスープ(塩気がきついのでお湯で薄めたほうがいいかも)に、ほぐした羊肉、ねぎ、パクチー、ゆで卵。

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羊肉のスープ、やはり麺にも合います。
御徒町の羊香味坊(ドラマ版孤独のグルメにも出た店)のラーメンに似てる。

まだまだ余っているので、カレーも。これが美味しかった。
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飴色に炒めたタマネギとたっぷりトマト、ルーではなくスパイスを使ってあっさりめに。
もとのスープに塩気が効いてるので、あんまり調味料を加えなくてもしっかり味が決まります。

途中で脱線して、ハッスル羊肉ショーとなってしまいましたが、羊肉好きとしてはたっぷり楽しめて幸せでした。が、さすがに連日食べると「もうしばらくいい…」と食傷気味に。

太郎がラーメンやカレーという高度文明料理に出合えるのはいつの日になるのか…。

現在「週刊モーニング」で第二部連載中ですが、領土をめぐる戦争への発展など人類通史的な流れに、太郎が現代人の知識で無双する異世界モノっぽさもあり、引き続き面白いので今後も要注目です。



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