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人生で一度でも「梅仕事」に手を出したことがある人なら、毎年初夏にスーパーに並ぶ青梅を見たときの心のザワつき、焦燥感をわかってくれるのではないでしょうか。

よく考えたら別に作らなくても死にはしないし、誰かが困るわけでもないけど、なぜか梅を前にするといてもたってもいられなくなるのです。

30代から梅シロップ、梅酒、梅味噌……と、おっかなびっくりで挑戦してきたけれど、「梅干し」だけは敷居の高い、別格の梅仕事でした。

「いつかは…」と思うのだけど、手間のかかる工程や、必要な道具をそろえる準備、天候などいろいろと考えることが多くて、会社にいる時間のほうが長いタイプの兼業主婦の自分には、なかなか手が出せず。
たまに聞く
「梅を漬けるときにカビが生えたら、不吉の前兆」
という民間ジンクスも、「素人がヘタに手を出したら火傷するぜ」感に一役買っていました。

そんな「梅干しへの畏れ」を取っ払ってくれたのが、「すみれファンファーレ」4巻の梅干し作りのエピソード。

ここに登場するすみれママのセリフは、まさに私のような梅に手を出せない人間の気持ちを代弁するかのようです。

調理師として働くママは、梅シロップや梅酒はお手の物。
すみれちゃんから梅干しは作らないのか、と聞かれ「いつかは挑戦してみたいと思いつつ…」と言葉を濁します。

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※【コマ引用】「すみれファンファーレ」(松島直子/小学館)4巻より

小さな子供と同じようにこまめに目を配ってあげなきゃならないの。
私、家にいる時間が少ないからさ…

ちゃんと面倒みてあげられなくて梅の子までダメにしちゃったら、
ちょっと落ち込みそうで…

この気持ち、痛いほどよくわかる。
単に大変だから、面倒だから、というよりも、ダメだったときに落ち込む自分が嫌で尻込みしてしまうのです。

ママの場合は、多忙なシングルマザーとしての引け目もつい言葉にあらわれてしまったのでしょう。そんな様子に、すみれちゃんは気がかりを覚えます。

そんなとき、すみれちゃんはクラスメイトの山ちゃんとソンチェフが、梅干し作りに挑戦しようとしていることを知ります。
しかも山ちゃんのばーちゃん直伝の、失敗しにくい「ジップンロック漬け」で(ジップンロックは言うまでもなくジップロックのこと)。
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※【コマ引用】「すみれファンファーレ」(松島直子/小学館)4巻より

この梅干し作りなら、おかーさんも失敗を恐れずチャレンジできるかもしれない。
そう思いついた彼女は、山ちゃんとソンチェフも誘って、自宅での梅干し作りにママを巻き込むことにします。

作り方の説明を見ると、確かにめちゃくちゃ簡単そう。
すみれちゃんのママへの励ましに、思わず自分も背中を押された気持ちになって、挑んでみることに。


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梅は完熟状態のものを使います。今回は2キロ分。
青梅の場合は、黄色く熟すまで置いておきます。
家のなかに熟した梅の香りが充満して、これだけで幸せな気分になる。

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完熟梅を優しく洗います。
水に浸った梅はガラス玉か宝石のようで、この世にこんな美しいものがあるのか…と大げさでなく思う。
洗った梅はつまようじでヘタの部分をとって、水けをよくふいておきます。

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ジップロックは2枚用意します。まずは1枚、袋に焼酎を注ぎ、ジッパーを閉じて軽く振って消毒。
この焼酎はボウルに移し、1キロ分の梅を入れて転がして、再び消毒に使います。

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塩は梅の分量の18%。梅1キロの場合は塩180グラムです(昨今の減塩事情からすると塩分高めですが、これが一番傷みにくいらしい)。
これをボウルのなかで梅にまぶし、消毒済みのジップロックのなかに入れます。

もう1枚のジップロックと、残りの梅で同じように作業し…
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同じ重さの梅入りジップロックが2個できたら、これを上下にかさねます。上の袋が重しのかわりになる、という合理的な仕組み。

袋のなかで梅酢が出てきて、全体にいきわたるまで毎日上下の袋を入れ替えます。ちなみにジップロックから梅酢が漏れる可能性もあるので(私はやってしまった)、袋ごとタッパーやホーローなどの容器に入れたほうが安心です。

梅酢がしっかり出たら、梅雨明けのカーッと晴れる日をじっと待ちましょう。3日くらい晴天が続く時期がよいです。
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ざるに梅を並べ、陽があたるように干し、たまに裏返します。
(ジップロックに残った梅酢は別に保存しておきます。おにぎりを作るときに手塩のかわりにすると美味しい)

「梅干しは小さな子供と同じ」というすみれママの言葉のように、太陽を浴びホカホカと熱をおびた小さな梅をひとつひとつ手で裏返していると、ヨーシヨシヨシヨシとムツゴロウさん的「慈しみ」の感情が沸いてきます。

夜は室内に取り込みました。昔から3日干すのがベストと言われますが、天気が心配なら2日でも十分かも。

干し終わった梅は保存瓶に入れて完成。
すぐ食べてもいいけど、半年ぐらいたつと梅からエキスがじわっと染み出て、しっとりと香り豊かな梅干しになります。
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梅子! 梅蔵!
一粒一粒に名前をつけて呼びたいほど愛しい。

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手間のかかる赤紫蘇漬けも美味しいけれど、シンプルな白干しは梅の香りがダイレクトに楽しめて、こっちのほうが好き、という梅干し好きも多いのでは。

伝統的な漬け方と比べたら、邪道かもしれない。
でも、自ら上げていたハードルはちょっとした勇気で飛び越えられるんだ、とこのジップロック漬けが教えてくれました。

その後も毎年続けて、うちにはたくさんの自家製梅干しができました。
「去年と同じ梅干しは二度と出来ない」という山ちゃんのばーちゃんの言葉どおり、毎年少しずつ仕上がりが違うのが面白い。
去年漬けすぎたので今年は見送る予定ですが、やはり青梅の前を通るとザワザワするので、やっちゃうかもしれない…。




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