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「闇金ウシジマくん」が46巻で完結した。
目をそむけたくなるようなハードな内容が多くの人に読まれた理由は、裏社会をドライに描く筆致や強烈なキャラクターの魅力などいろいろあるだろうけど、私が特に惹かれたのは膨大な取材から抽出された登場人物たちの「生活」の描写だった。

例えば「ホストくん」編の、ホストたちが共同で暮らす寮の場面。
風呂場の排水溝にごっそりと溜まった髪の毛が描かれ、
片づけたら負けた気がして誰も片づけねェ
醜く肥大した髪の毛玉がここの全てを物語る
とモノローグが重なる。
グロテスクな髪の毛のコマが、売れないホストたちの状況をどんな説明よりもリアルに伝えていた。

生活はプロファイルだ。
どんな街や家に住み、何を食べ何を着るか、細部を積み重ねて世界観やキャラクターは厚みを増す。「ウシジマくん」はそこをちゃんと描く漫画のひとつだった。

生活描写に優れた漫画は、必然的に食のシーンも印象に残るものが多い。
真鍋先生は毎回じっくり取材を積み重ね(特にホストくん編は何十人ものホストに取材したらしい)、ヤクザの事務所の冷蔵庫まで開けていたというから、見ごたえがあるのも当然かもしれない。

単品で切り出しても「ウシジマくん」のグルメワールドはうまく伝わらないかもしれないので、再現した料理を1記事にまとめて紹介してみる。

洗脳くん編の肉団子とか、七輪の耳焼肉は出てこないから安心してください。

熊倉の兄貴直伝のオイルサーディン丼(41巻「ウシジマくん」編より)

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※【コマ引用】「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平/小学館)41巻より

多分作中で唯一、レシピ(作り方)まで詳しく描かれている料理。
猪瀬組の熊倉理事長といえば、人違いで襲撃されて後遺症を負うわ、最後は作中屈指の悲惨なリンチに遭うわで散々なキャラだけど、舎弟の滑皮さんいわく「カッコよかった」時代もあったよう。

そのイケイケであった時代、若き日の滑皮さんに自ら振る舞ったのがこの朝食。
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材料はオイルサーディン缶、ネギ、醤油のみ(ゴルゴのコラボ缶があったので思わず買ってしまった)。

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フライパンにオイルサーディンを油ごと入れ(油量が気になるなら半分くらい切ってから入れても)、みじん切りしたネギと一緒にざっと炒めて仕上げに醤油をたらす。土鍋で炊いたご飯にのっけて完成。

滑皮さんも気に入ったようで、その後自宅で作ったり弟分の梶尾に振る舞ったりするほっこりシーンも。

実際、これ簡単なうえにめっちゃ美味しい!
思わずガッガッと滑食べ(※滑皮さんの汚い食べ方/下図参照)してしまったほど。
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※【コマ引用】「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平/小学館)2巻より

ホテルで毎朝4200円のルームサービスを食べたり、コロッケにソースがないと激怒したり、エッグベネディクトに興味をしめしたり、ラーメン漫画でソロデビューしたり、滑皮さんこそ「ウシジマくん」No.1のグルマンだ。


柄崎の得意料理、塊肉の焼きメシ(37巻「逃亡者くん」編より)

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※【コマ引用】「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平/小学館)37巻より

「逃亡者くん」編で、マサルの行方を追って沖縄に潜伏することになった丑嶋と柄崎。
そこで「俺の大大得意料理」として作ったのが、塊肉の焼きメシ。チャーハンじゃなくて「焼きメシ」ってのが、いかにも柄崎っぽくてよい。

ウッキウキでチラ見しながら丑嶋の反応を伺う柄崎。柄崎、社長のこと好きすぎんだろ…。それに対し「焼きメシの上に肉が乗ってる味。」とつれなすぎる丑嶋。BLの素養がない自分でも、もはやBLみしか感じない。

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豚ロースの塊肉をぶ厚く切って、筋切りして塩コショウして両面を焼き、アルミホイルで包んでおく。

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土台の焼きメシはネギ、卵、ニンニクだけのシンプルなやつにしてみた。

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うん、焼きメシの上に肉が乗ってる味。

家人とウシジマくんの話をしていたら「そういえば丑嶋くんって女っ気なかったよねー」とか言うので思わず
社長には柄崎がいるからッッ
とその日一番強い語気で反論してしまったから、やはり私はウシジマくんでBLに目覚めてしまったのかもしれない。
それは置いといても、特に物語の終盤にかけては、丑嶋に柄崎がいなかったらと考えるだけで、辛すぎて絶望するよね……。


ビールの焼酎割り(34巻「ヤクザくん」編より)

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※【コマ引用】「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平/小学館)34巻より

丑嶋の中学時代の同級生で、探偵の戌亥。
彼の実家のお好み焼き屋で、丑嶋くんが注文したのがビールの焼酎割り。

麦酒を麦焼酎で割る、いうなればストロングホッピーヤカラみを感じる。しかも「焼酎のビール割り」ではなく「ビールの焼酎割り」ってことは、比率は焼酎>ビールなの…?

とりあえずキリンビールを下町のナポレオン・いいちこ濃いめで割ってみたけど、予想どおり極悪なビールが爆誕した。つおい子のための飲み物です。

戌亥といえば、路上で駄菓子を食べながら丑嶋と情報交換するシーンも印象的だった。
裏社会で生きる身になっても、ふたりの関係性の変わらなさを象徴するのがあの「駄菓子」だったんだろう。「俺が一緒に飯食う友達、丑嶋くんしかいないんだからさ」は大好きなセリフ。



カレー鍋とラム牛乳(4巻「ゲイくん」編より)

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※【コマ引用】「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平/小学館)4巻より

4巻の「ゲイくん」編に登場する料理。
ゲイ仲間で鍋パをする予定が、スーパーで安い食材を選んでいったら結果的にカレーになっちゃった、という身内の飲み会ならではのユルさが味わい深いシーンだった。

「ゲイくん」編の主人公・ゆーちゃんがよく飲んでいたのがラム牛乳。さまんさのバーで、カレー鍋パで、何度も登場する。ココナッツ風味のラム酒「マリブ」を牛乳で割ったカクテルで、杏仁豆腐に似た風味で甘ったるく飲みやすい。衝突を避け、嘘をつき生きてきた彼のモラトリアムな生活のように。

ゲイくん編は単体で短編っぽい完成度があって、陰鬱な展開もないのでシリーズのなかでも比較的心穏やかに読める。債務者のジャニオタ氏はその後も何度か出てきたけど、幸せに暮らしてるのだろうか……。

番外編:コンビニ食品とマヨネーズ

再現はしなかったけど、作中で頻繁に登場して記憶に残っているのが、コンビニ食品やそれにマヨネーズを鬼盛りして食べるシーン。
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※【コマ引用】「闇金ウシジマくん」(真鍋昌平/小学館)13巻より

食べているのはたいてい自堕落な生活をおくる人々で、ハンバーガーに、カップ麺に、菓子に、どっぷりとかけて貪る。何度も登場するのを見るうちに、マヨネーズがまるで怠惰という罪の象徴のように思えてくる。業務用サイズを一ヶ月で消費する我が家もやばいかもしれない(やばいよ)。

シリーズ中の一部の債務者たちは、どん底から生活を立て直していくなかで、食事も「健全化」していく。ホームレス生活まで落ちた「フリーターくん編」の宇津井が、最後は家族でささやかに鳥鍋をつつくまでになったように。

意外なことに丑嶋くんや滑皮さんのような一流の不良ほど、ちゃんとした食生活を身につけている(丑嶋くんなんて中学生のときから家事をこなしている)。アウトローのアナーキーな暴力世界が描かれる一方、根底の生活観はシンプルに道徳的なのだ。



じつはブログの書籍化の際(2012年)、書下ろしのなかにウシジマくんの再現も加えたくて、4巻のカレー鍋もラインナップの候補にしていた。ただそのときはまだ作中の食シーンの事例が少なくて、ウシジマくんの「食」をちゃんと語れるか自信が持てず見送ったのだった。なのでここでようやく語れて嬉しい。

真鍋先生作品は先日出た短編集もリアルな生活感が
とてもよかった。生活描写フェチとしては、次回作でどんな人々と、どんな暮らしが描かれるのか楽しみ。