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※【コマ引用】「ふしぎの国のバード」(佐々大河/KADOKAWA)3巻より

イギリス人女性探検家、イザベラ・バードによる明治初期の日本紀行を題材にしたマンガ「ふしぎの国のバード」。

世界各地を旅してきたバードの日本での目的は、蝦夷ヶ島(北海道)のアイヌ集落まで、前人未踏の西海岸(日本海)ルートで向かいながら、現地の生活を記録すること。過酷な道中をともにする通訳として、流暢な英語を使う謎の青年・伊藤鶴吉と出会います。

実在のバードが日本を旅したのは40代後半のころのようですが、作中のバードさんは若い女性として描かれています。まあこれは、アレンジとしてしょうがないのかも。ただガイドの伊藤鶴吉をはじめ、実在の人物も数多く登場し、史実との絶妙なシンクロ加減が楽しいです(&Wikipediaを読む手が止まらない)。

ユニークなのが、あくまでも「バードさんから見た日本」として当時の日本が描かれている点。
なので、日本語のセリフは「理解できない外国語」として描かれています。
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※【コマ引用】「ふしぎの国のバード」(佐々大河/KADOKAWA)1巻より

江戸時代の色がまだ濃く残る明治・日本の「異文化」に驚き、感動し、時にとまどうバードさんの目線は、現代の私たちの目線そのものでもあります。一方で近代化と文化的アイデンティティの狭間で揺れる日本人としての心情は通訳の伊藤の目を通して描かれます。「知らない日本」と「よく知る日本」、どちらの視点でも楽しめ、感情移入できる構成は、本作の大きな魅力といえます。

今回は3巻で、伊藤が作った日本料理の数々を再現してみました。

東京を出発しておよそ1カ月、津川の船着き場に到着し、いよいよ新潟に向かうことになったバードさん。
しかし肉や乳製品が手に入らない食生活が続くなかで、ストレスゲージはMAXに。津川で期待していたチーズやパンが手に入らなったこともあり、普段はその土地の文化に敬意を払う彼女も、ついに感情が爆発。
伊藤の前で沢庵や糠みそを
あんなひどい臭い スカンク以外に嗅いだことないわよ 私!!
とけなしてしまい、後悔します。

しかしこれが伊藤の心の何かに火をつけたようで、宿の台所を借りて一気呵成に料理をこしらえます。
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※【コマ引用】「ふしぎの国のバード」(佐々大河/KADOKAWA)3巻より

作中で名前が出てくるのは
・鼈甲豆腐
・鱸(すずき)の鮭焼き
・磯菜卵
・白瓜冷汁


ご当地の食材を使った豪華な日本食の数々と伊藤の心遣いに、バードさんもすっかり気を持ち直します。

しかし現代の日本人にとっても、興味津々なこの伊藤の料理。
「鼈甲豆腐」なんて初めて聞きました。どうやらいずれも江戸時代の料理が元になっているようで、たった150年程度前なのに珍しく思うなんて、食文化もガラリと変わってしまったんだなあ、としみじみ。

作中では調理法が詳しく描かれているものもあるので、それを手がかりに再現してみることにしました。


鼈甲豆腐(べっこうどうふ)

名前のとおり、鼈甲色をしていると想像できる豆腐料理。
どうやら寒天で豆腐を固めた、玲瓏(こおり)豆腐のアレンジ版のようです。玲瓏豆腐は、かの「豆腐百珍」にも掲載されています。

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カツオとこんぶでとった出汁(500cc ※冷ましておく)に棒寒天を1/2本、ちぎりながら加えます。
しばらく置いてから火にかけ、弱火で寒天が完全に溶けるまで煮ます。

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絹豆腐(一丁)を正方形に切り、厚さを半分にし、さらに三角形に切ります。残った豆腐の一部はくずし、容器に間をあけて配置します。

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寒天が溶けたら砂糖(大さじ2)を溶かし、薄口しょうゆ(大さじ2)、塩(小さじ1)、山椒(少々)を加えて煮立たせます。
これを漉し器で漉しながら、豆腐を配置した容器に流し入れます。

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寒天が固まるまでしばらく置きます。

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固まったら型からはずし、寒天部分が縁取りになるようにカットします。くずし豆腐の方は、長方形にカットします。

ワサビと木の芽を添えて完成。
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バードさんも「琥珀の宝石みたい……!」と感嘆していますが、寒天と豆腐、二層に分かれた見た目がまるで工芸品のようで美しい。

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つるんとした醤油味の寒天と、プルプルの絹豆腐の対比が面白く、なかなか美味しい。
小料理屋のつきだしに出てきてもおかしくない、今っぽさもあります。
今回は煮凝り風の味付けだけど、玲瓏豆腐はデザート風のレシピも多いので、甘味にして黒蜜で食べても美味しそう。


さてここからは、残りの献立を。
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磯菜卵

バードさんも「ほどよい酸味でさっぱりしてる!」と気に入った、和風ポーチドエッグ。
「煎り酒」という調味料で食べます。煎り酒は一説によると醤油よりも古い調味料なのだとか。

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小鍋に日本酒(300cc)と昆布一切れを入れ、5~6時間浸します。
昆布を取り出して梅干し(大1個分)を入れ、弱火で日本酒が半量になるまで煮詰めます。

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かつおぶしをひとつかみ入れて5分ほど煮、キッチンペーパーで漉したら完成(150ccほどできます)。

作ってみてどうも既視感があるな……と思ったら、美味しんぼのシャブスキーで再現したタレとそっくりなことに気づきました。そうか、あれは煎り酒だったのかー、といまさら納得。

ここからはポーチドエッグづくり。
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鍋に湯を沸騰させて酢と塩を加え、そのなかに茶碗に割った生卵を入れます。
1分半~2分ほどしたら網杓子で引き揚げ、器に盛りつけます。

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もみ海苔を散らし、煎り酒をかけて完成。

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基本はポーチドエッグなので、これはバードさんも食べやすかっただろうな…という味。
しかしタレに使った煎り酒が、めちゃくちゃ美味しい!
醤油ほど塩分が強くなく、出汁と梅の香り、酒の甘みが活きた優しい味わい。白身のお刺身につけても美味しいらしいので、今度試してみよう。

鱸の酒焼き

私の持っている電子書籍版では「鱸の鮭焼き」となっていて、「鱸を“鮭”焼きする…?」と頭が混乱したのですが、伊藤の作り方を見る限り、おそらくこれは「酒焼き」の誤植なのでは…と推察(もしかしたら「鮭焼き」という調理法が本当にあるのかもしれないけれど…)。

酒焼きは、肉や魚に酒をかけて焼く調理法で、先に作った煎り酒も使えるな……というもくろみ。

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鱸は予算の都合で切り身です(この2切れで1200円くらいしたんだぜ…)。
一口大に切り、塩を振って串を打ちます。

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煎り酒に醤油を加えたタレに鱸を漬け、グリルで焼きます。

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葉生姜の甘酢漬けをそえて完成。
煎り酒の効果か、ふっくら焼きあがった鱸は脂乗りもよく美味しかったです。

白瓜冷汁

「冷汁」といえば宮崎の郷土料理を思い出しますが、調べたところそれとは別モノで、実際にレシピが残っている江戸料理。しかも味噌汁をわざわざ和紙で漉して食べる……という夏らしい涼やかな工夫も。見た目はすまし風だけど、味噌の風味が残っているのがポイントのようです。

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ちょうど白瓜が店に出回っている時期でした。
皮をむいて縦半分に切ってスプーンでタネを取り除き、薄くスライスします。

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出汁を沸かして白瓜を入れ、煮えたら味噌を溶きます。その後キッチンペーパーで味噌汁を漉します。

最初上の写真のようにコーヒーフィルターで漉してみたけど、味噌が詰まってしまった…なのでキッチンペーパーで十分です。あと、白瓜を洗って戻すのが大変なので、出汁で煮る→白瓜を引き上げる→味噌を溶く、という工程のほうが効率的かも。

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白瓜を戻し、針生姜を加えて完成。冷蔵庫で冷やしておきます。

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見た目はすまし汁なのに、飲んでみるとほんのり味噌の味。
夏場は熱々の味噌汁がしんどいときもあるので、これは江戸の人の知恵ですね。白瓜と針生姜の組み合わせも、さっぱりして好みです。

紫蘇飯

最後にご飯もの。
これについては作中に説明がないのだけど、コマの絵を見る限り、白米の上に菜っ葉らしきものが乗っています。調べてみると、江戸料理で「紫蘇飯」という料理があり、ビジュアルが近かったので、今回はこれで再現してみます。

本来は、紫蘇の若葉である「芽紫蘇」を使うようですが、残念ながら手に入らなかったので、「穂紫蘇」で代用。
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炊きたてのご飯の上に枝からしごいた穂紫蘇をのせ、塩を少量ふって完成。
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小さいながらもしっかり紫蘇の風味。プチプチした食感も気に入りました。

もう一度集合写真。
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伊藤が腕をふるった江戸料理のフルコースは、現代の食生活に慣れた日本人からしても、新鮮で驚きがいっぱいでした。夏の暑いなかでも食を楽しもうとする昔の人々のさまざまな工夫も、実際に再現してこそ気づけました。

漫画のバードさんは紀行にこう記します。
この国にも驚くほど豊かな食文化が存在します
僅かな燃料と僅かな道具で多様な料理を手際よくこしらえていく様子や
清潔で年季の入った調理道具と食器類
美しく盛りつけられた見たこともない料理の数々――
それらすべてに独自の美しさがあります
史実のバードさんもパンやチーズに恋い焦がれ、慣れない日本食に四苦八苦しつつ、奥底にある魅力に気づいたのでしょうか。遠い異国を冒険した女性の心情に、ちょっと近づけたような気持ちになる再現でした。

本家の紀行も読んでみよっと。 煎り酒は市販品もあります。
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