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数年前、あるイベントでご一緒した歌人の枡野浩一さんが、「僕は食べ物に興味がない」ときっぱりおっしゃいながら「一番好きなグルメ漫画」として挙げられていたのが、この「鬱ごはん」だった。

施川ユウキ先生といえば、チャンピオンを購読してた時期に「がんばれ酢めし疑獄!!」「サナギさん」がお気に入りだったけど、グルメ漫画を描かれていたとは当時は恥ずかしながら知らなかった。

その後手に取ってみたら、めちゃくちゃ面白い。こういうのが読みたかったんだ、と思った。
グルメ漫画は基本的に、食を圧倒的にポジティブに扱う。
みんなで囲む食卓、手間をかけた食事、記憶のなかの思い出の味……。いずれも温かなもの、よきものとして描かれる。

対して「鬱ごはん」が描くのは、食の「負」の風景。
就職浪人として悶々とした日々をおくる主人公・鬱野の、文字通り鬱々とした食事の数々。
一人暮らしの主人公を気づかって食事に誘ってくれる叔父、という心温まりそうなシチュエーションも
「最も食欲の湧かない食事がある 他人の家で食べる飯だ」
と華麗にネガティブ変換される。

食べることは楽しいこと、おいしい食事は素晴らしいこと。
だけど辛いことがあれば何を食べても味はしないし、誰かと囲む食卓がいつも楽しい訳じゃない。それも食の風景のひとつだ。

そういう漫画なので、おいしそうな料理やレシピはほぼないのだけど、2巻の焼きそばのエピソードでは、珍しく料理に対して前向きな主人公の姿が見える。

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※【コマ引用】「鬱ごはん」(施川ユウキ/秋田書店)2巻より

買ったばかりのスニーカーで、満開の桜のなかを歩き帰宅した鬱野。
普通の花見には縁のない彼が、いつかテレビで見たのを参考して作った、屋台風の焼きそば。おろしたての靴底で連れ帰った桜の花びらとともに、ひとり自己流の花見を風流に楽しむ。

……といっても最後には当然悲しいオチが待っているのだけど、狭いキッチンで悪戦苦闘しながら作る屋台風焼きそばが、おいしそうに見えてくるから不思議。

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作り方:
フライパンにごま油を多めに入れて熱し、ここに袋めんの焼きそばを入れる。
片面がカリカリになるまで焼く。

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その間に、胡椒を振った薄切りの豚肉とキャベツを交互にかさね、ミルフィーユ状態にしておく。
(肉同士がくっつかないようにするためらしい。これも屋台風のテクなのかな)
麵が焼けたらひっくり返し、その上にこの具をのせる。

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※【コマ引用】「鬱ごはん」(施川ユウキ/秋田書店)2巻より

我が家は2コンロだけど、主人公が1つしかないコンロを駆使して調理するシーンが味わい深かったので、無駄にマネしてみる。

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具をのせたフライパンを反対側の手に持ち替え、少量の水をいれた片手鍋を火にかける。
お湯が沸いたら、フライパンをコンロに戻し、熱湯を注いでフタをし1分半蒸し焼きにする。
「肉は別で焼くのが理想だが……これでいい」
と、あくまでもしょうがなくやってる感で調理すると雰囲気が出る(なんの)。

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さらにポイントは、付属の粉ソースではなくちゃんとした焼きそば用のソースを使うこと。
フタをあけて麵に絡ませて……

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混ぜる際、麵の余計な水分を気化させるために、麵を箸でリフトアップさせるのも忘れずに。
この漫画でこんな調理のワンポイント的な描写があるとは思わなかった。

皿に盛り付け、青のりとかつお節をのせる。
このふたつがあると屋台っぽさ出る。
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桜の季節じゃないけど、箸置きがあったので使ってみる。ふーりゅー。

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食べた感想:
蒸し焼きで仕上げた麵はやわらかくも、片面をぱりっと焼いたおかげで香ばしさもあり。
ごく普通の焼きそばなのですが、あの鬱野くんが本気出して作った一品……と思うと、なんかちょっとありがたみが増すような気がする。

今回はちゃんとしたレシピだったけど、
「ポケットから発掘された、半年前に焼肉屋でもらった古いガム」
「駅のホームで空腹に耐えかねて食べる信玄餅」
など、悲しくも印象に残る食べ物もたくさん登場する。こういうのも「食べたい」と思ってしまうのは、単に自分が食い意地張ってるからなのか、「負の食事」自体の魅力なのか……。

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